果物として花嚢(かのう)を食すイチジク(Ficus caraca)や観葉植物として知られるゴムノキ(Ficus elastica)などと近縁の植物。葉脈が浮き立つ卵形の葉と白い幹肌のコントラストが上品に見え、インテリアグリーンとして人気がある。生育条件が良いと実のように見える花嚢を頻繁に付ける。
Ficus(クワ科 イチジク属)に属する植物は、世界中で900種近くも確認されていて、熱帯で最も栄えている植物の一つです。日本などの温帯で食用にされているイチジク(無花果)は自家受粉によって結実をするFicusの仲間では特殊なタイプですが、ほとんどのイチジク属の植物にはそれぞれの種ごとに対応する固有のイチジクコバチ科の昆虫が寄生していて共生関係を持っています。以下は、釈迦がその樹の下で悟りを開いたといわれるインドボダイジュ(Ficus religios)とそれに寄生するイチジクコバチの共生の説明です。なお、熱帯植物であるために一年中生育しており、新しい枝が伸びるごとに花嚢が生長して、常時どこかに花が付いていることを念頭におきます。
イチジク属の花は、花嚢(実)の内側でごく若い段階に花が咲き、外側からは見えません。花が咲くタイミングと同時に花嚢のてっぺんに小さな穴があいて、そこから他の花嚢内で成虫になり、たっぷりと花粉を持った雌コバチが入り込みます。この段階では雌シベの子房は受精可能になっていますが雄シベに花粉はできていません。雌コバチは雌シベの柱頭から産卵管を差し込み、子房の中の胚珠に産卵します。そして産卵後、その柱頭に花粉を付けます。腹の花粉袋から花粉を出して意図的に付けるのです。
雌シベには子房と柱頭の間が長いものと短いものがあり、長いものに産卵しようとしても産卵管が子房に届きません。するとコバチは産卵を諦めてしまいますが、花粉は付けるので、長い雌シベからは種ができることになります。一方、短い雌シベの子房には産卵できるので、産卵された子房は虫コブになり、コバチはその中で孵化します。人工的に花粉を持たせないコバチに産卵させた実験で、子房中の幼虫は成長途中で死んでしまうことが判っており、インドボダイジュにとってだけでなく幼虫の生育のためにも受粉は欠かせないものになっています。
孵化してから一ヶ月ほどでコバチは成虫になりますが、小さな穴しか開いていない花嚢の中は外気がほとんど入らず、炭酸ガス濃度が非常に高いために雌は動くことができないのです。しかしながら雄は動くことができて、雌の入っている子房に穴を開けて中にいる雌と交尾をします。その後に花嚢の外側の壁にも外気を入れるための穴を開けるのです。その穴のおかげで花嚢内の炭酸ガス濃度が下がり、雌も動けるようになります。ちょうどそのタイミングで雄花が成熟し花粉を出すので、雌は自分の花粉袋に花粉を詰め、雄が開けた穴から外へ飛び出して、受粉可能な他の花嚢を探して飛び回るのです。雄のコバチは目も羽も退化した姿をしており、雌が飛び立った後すぐに、花嚢の中で短い一生を終えます。
以上がインドボダイジュとそこに寄生するイチジクコバチのお互いの繁殖戦略です。それ以外の熱帯性イチジク属の植物とそこに寄生するイチジクコバチも似たような戦略をとります。しかし同じイチジク属の植物でも、温帯で季節変化のある日本に自生するイヌビワのように雌株と雄株が別の樹であるような場合には、イチジクコバチとの関係がさらに複雑です。以下は、イヌビワとそこに寄生するコバチとの共生の説明です。
イヌビワには雄株と雌株とがありますが、雄株には雄花だけでなく雌花も付きます。だた、雌しべの花柱が短いものしかありません。一方、雌株は雄花は付かず、雌しべの花柱は長いものしかありません。イヌビワの花嚢は少数しか越冬できず、春になるとその越冬した雄株の花嚢からコバチが発生します。ちょうどその頃に同じ雄株には受粉可能な花嚢がたくさん付いていて、コバチがこの花嚢に産卵すると、7月頃にここから大量のコバチが発生します。ところがこの7月頃の雄株には受粉可能な花嚢は少ししかなく、雌株に多くの受粉可能な花嚢ができるのです。雌株の花嚢には大量の種ができることになります。そして受粉した少数の雄株の花嚢の中から翌春にコバチが発生するのです。イヌビワ側に立つと、まだ十分に活動できない春には繁殖のための投資を控え、花粉媒介者をたくさん増やしておき、夏以降に大量の種をつくるための下準備をしているとも言えます。また、イヌビワの雄株の花嚢はコバチが脱出するタイミングに自らが口を開くために、インドボダイジュのように雄コバチが壁に穴を開ける必要がありません。そして雌コバチには花粉袋が無く、腹が折りたたまれた中に花粉を入れて運ぶので、産卵時に腹を伸ばしたときに自然に花粉がこぼれるしくみになっています。