部屋の中の虫たち
ふた月前のこと。パソコンに向かうたびに、その机の片隅で異臭がするな~、っと思っていたところ、我が家の飼い猫ウメが、デスク脇の植木鉢の隙間あたりを鼻でクンクンしているではないですか。恐る恐るその植木鉢を動かしてみると......、なんと20cm近くもあるドブネズミの死骸が横たわっていたのです。あわててコンビニ袋で死骸をつかみ取ったのですが、床上に残った腐肉の上には数百匹のウジがうごめいていました。追って鼻が曲がるほどの悪臭攻撃。
ウメは優秀な狩人。数日おきに蝉、アゲハ蝶、ゴキブリ、ヤモリ、雀、ネズミなど、先日はヒヨドリも捕まえてきました。残酷な気もしますが、猫の本能だからどうにもなりません。与える餌で十分に満たされているから、捕えた小動物はもてあそぶだけで、動かなくなったら飽きてしまう。甘えてくる姿からは想像もできないくらい野生の一面を残しています。自由に外出させるようにしてからは、体つきや顔が逞しく精悍になり、態度も大らかで堂々としてきました。
あのネズミの腐肉に付いた大量のウジ虫を見たら、虫嫌いのご婦人方は悲鳴を上げることでしょう。最近は若い女性のみならず、子供がやたらと虫を嫌います。親がゴキブリでギャーギャー騒いだりするものだから、男の子でさえもゴキブリにおびえて、カマドウマが一頭、室内に入ってきただけでも逃げ惑います。昔の子供は虫を玩具にしていたはずなのに、いったい何が子供と虫を切り離してしまったのでしょうか。単に自然が身の回りに少なくなったからだけでしょうか。
ある小学校で蛍の飛ぶ里山を見学にいくことになったのですが、何と子供に配布されたプリントの持ち物リストの中には虫除けスプレーが入っていたそうです。これはいったい何を教えるために企画されたものなのでしょう。蛍が生息できる環境に出向いて行けば、カやブユに刺されるのは当たり前で、蛍のみを鑑賞したところで子供に何を理解させることができるのでしょうか。また、蝉がうるさくて授業にならないからと、役所に蝉の駆除依頼を入れた学校があるそうです。
都市に生活すると自然が遠のき、地球環境のすべてがかかわり合って人の生活が成り立っているのだということを忘れます。都市部の子供に教えるべきことの一つとして、自然環境とはどのようなものかを少しでも理解させること、が必要です。極端な話しですが、私はト殺場の存在も小学校高学年の段階で教えるべきではないかと思っています。子供は清潔な生活をすればするほど免疫力が下がり、病気にかかり易く、アレルギー症状が多くなります。アレルギーの多い子供を抱える親にかぎって、住環境を清潔に保ち、食べる物に細心の注意を払っていたりするものです。本当に大切なのは適度に清潔なことであり、適度に良いものを食すことです。適度とはどの程度なのかを教えることが大切です。
植物を販売していると、購入した鉢の中から虫が出てきた、という苦情が入ることがあります。もともと農家で土の上に置かれた鉢で育っているので、虫が全くいないということはあり得ないのです。ところが農家の消費者に歩み寄る努力が進み、無菌培養土で育てた観葉植物なども出回っているためか、「お宅の植物はどんな土に植えて販売しているのか? 納品前チェックをきちんとしているのか?」と電話で怒鳴られたこともあります。植物の置かれた現場に伺ってその虫を見たところ、古本の間などに居てカビを食すヒラタチャタテのような、体長1mmほどの小さな白い虫だったこともありました。
虫は自然の使者です。レジャーとして「自然に触れる」とか「自然に親しむ」と称して、わざわざ里山や森林に多くの時間を割いて向かいますが、大事な自然を忘れている人が大多数です。それは家の内外の自然。今は外界から切り離されてエアコンディショナーから出た空気しか吸うことができないマンションも存在しますが、通常、家が建てられると周囲の自然が一斉にその家に適応しようとします。微生物や昆虫類は人間の生活に適応して、共生しようとしているのです。彼らとうまくやりとりできず、排除しようとする人は自然が何かを理解できていない人です。家の中の自然を自然と認めない人が里山や森林に出向いても本当の自然が理解できるはずもありません。たぶん目の前に虫がいても「知っている虫」でないと気にも留めないでしょう。部屋の中に飛び込んできた虫が実害を与えるのであれば、その都度きちんと駆除し、無害ならば放置すべきです。いくら庭の草木が豊かでも、部屋に虫や微生物が住むのを許さないのでは、それは大きな矛盾だと言えないでしょうか。
みなさん、少しの虫は許しましょう~。虫自体は不潔な生き物ではありません。そして良く観察してみてください。最近は住環境が清潔なためにゴキブリでさえもバイ菌を付けていません。観葉植物の鉢に住む虫も少しならば許してください。園芸植物を育ててもらうことが、少しでも皆様方の自然への理解を進めることに繋がれば幸いです。
2012.9.27 Hitoshi Shirata