多くの命をいただいて生きています

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お店の植物を見て、「うわ〜っ、かわいい〜」っと言ってくださったお客様。お話をした後に、「でも、枯らしちゃうとかわいそうだから......」と手のひらに乗るくらいの小さな植物でも諦めるお客様がいらっしゃいます。きっと花のブーケだったら迷い無く買われるのかもしれません。

NEO GREEN で販売している植物は、みな根っこが付いています。根っこが付いているので、育て方によっては、何年でも生き続けます。当たり前ですが、花屋さんの花や枝や葉は切ってあるので、水を吸い上げる力がなくなると死んでしまいます。だからこそ、切花は気軽に買えるものとなっています。だって、枯れる責任は、買う自分にあるのではなく、花茎を切った生産者にあるのですから。誰も命の責任は取りたくないのです。

ふだん何気なく食べている食肉にも似たような心理が底にあります。肉が大好き〜!、っと言っている若者が牛のとさつ場面を見ただけで、しばらく肉が食えなくなってしまう、あの気持ちです。もともと牛や豚を食らう食文化は欧米からやってきたものだから、という理由が大きいのでしょうが、日本の場合は畜産農家の方でさえも、自家用のと殺をしない場合が多いです。と殺を職業にしている方々がいるからこそ肉を口にできているはずなのに、多くの人は他の生物の命をいただいて生きているという意識が希薄です。実は野菜だって生き物です。誰もが他の生物を殺すこと無しには生きていけません。生きること自体が他の生物の命への責任を伴います。

その意識の希薄さの延長線上に、ペットの殺処分問題があるような気がします。ペットの世話が手に負えなくなり、保健所に持ち込まれるペットの数がいっこうに減りません。持ち込まれる半数以上の犬猫が引き取り手も見つからずに殺処分となります。保健所で仕事をされている方々も、殺したくて殺しているのではありません。日本の法律上、そのような形でしか問題を解決できないという現状があります。イギリスのようにペットショップで生体を売れないし、犬猫を飼うには審査を受けることが必要、という規制があればいいのにな、とは思いますが、今の日本ではなかな難しいでしょう。

まずは食べ物を粗末にしない習慣を子供たちに植え付けること。そして、子供達に動植物を育ててみる体験をさせること。可愛がっている動植物が思い通りにならなかったり、死んだり枯れたりしてしまうという体験はとても貴重です。子供の頃の体験がないと大人になってから気付くチャンスも激減します。犬猫を飼ってみる経験も良いのですが、小動物や昆虫を飼ったり、植物を育ててみる体験がおすすめです。犬猫は人の社会や習慣に順応してきた動物ですが、昆虫や植物は、それらが本来どんな環境で生活しているのか、また人の住環境への順応性がどれくらいあるのかが種類により大きく違います。昆虫や植物は「自然の一部」という意識がないと、順調に生育しないものです。相手の身になってみる、という習慣が身につきます。

ぜひぜひ、一鉢の植物を育てる体験を始めてみてください。ファッションや音楽やゲームなどの人工物に浸っているうちに特異化してしまう精神への解毒剤となるはずです。命の責任をとる練習を、まずは植物から。愛があって枯れるのと、ほったらかしで枯れるのとは大違いです。

2011.6.25  Hitoshi Shirata

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