イメージ力

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一週間ほど前、わが社の温室の敷地に高さ5mある本株立ちの「アズキナシ」を植え込みました。自前の運搬は無理ですしクレーンとパワーショベルを使わないと植え込めない大きさなので植木屋さんにお願いしたのですが、植え込み作業中の会話の中でいろいろと考えさせられることがありました。

アズキナシは日本の山に自生している樹で、本株立ちというのは根本の部分から数本の幹が立ち上がっているものなのですが、大きな1本立ちのアズキナシも手に入るのかどうかを聞いたところ、「無い」ということなのです。人里近くのアズキナシは材木として出荷するために全部切られてしまっていて、切った樹の根本から新たに芽が出て、それが大きくなったのもが本株立ちということで売られているのだそうです。

なんだか買った樹を山に戻したい気持ちになりましたが、そういうわけにもいかず、倍の大きさになるまで大切に育てようと思う気持ちでとどまるしかありません。それでも、風にそよぐその一株の樹を見ているだけで、日本の山の風景が思い起こされて本当に豊かな気持ちになるのです。そして、その樹をクレーンで持ち上げて植え穴に落とし込み、植え位置を調整する作業中でさえも、わさわさと揺れる枝々、揺すられる葉をめがけて沢山の飛ぶ虫が樹に寄り添ってくるのです。

自然の事象や生物はどこも切れ目無く繋がっているのだと書物で教わってはいても、草木を育て、昆虫や植物に付くウィルスの実態を体験してみないことには共生してゆくことのリアリティーはなかなかつかめないものですね。幼い頃に自然に触れる生活を経験できた人は幸せです。都会生活でのちょっとした体験から大自然をイメージできるのですから。そして自然物に対する直感も養われています。

日本の人口はますます都市へ集中する傾向にあり、都市生活では高い生産性を求められてしまいます。私たちが毎日せわしく生活しているこの瞬間にも、大自然の植物や動物たちは必死で生き抜き、宇宙全体は大きく動いているのです。「エコ」な生活を目指すときに最も大切なことは大自然を想像することができる「イメージ力」なのだと思います。義務教育内で子供たちに教えなければいけないことは沢山有りますが、環境立国を目指そうとする現代日本なのですから、リアリティのある自然体験は早急に教育プログラムの中に組み込みたいものの一つです。

2008.6.30  Hitoshi Shirata

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