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『こっぷ』

随分しばらくの間、出版社で在庫を切らしていた1冊の絵本が、最近やっと重版されて復活しました。その本の名前は、『こっぷ』。あのガラスの、誰もが毎日使う、透明な器=「こっぷ」です。こんなささやかな日常の道具について、谷川俊太郎が言葉を書き、今村昌昭が写真を撮り、日下弘がアートディレクタ−を務めた、1972年に出版された科学絵本の名著というのがこれなんです。

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「こっぷは みずを つかまえる」という一文からはじまり、その硬さや、透明さ、光の屈折の不思議、コップの奏でる音や、コップの製造過程などなど、あらゆる角度から、わかりやすく美しくこの「こっぷ」を捉えます。「ときどき こっぷは とっても おしゃれ」という文章に添えて、色とりどりの果物で飾られたフルーツポンチ入り「こっぷ」の写真を見たときは、なんだか気持ちよく、はっと胸が締め付けられたりして。その他にも、コップを寝転ばせてみたり、割ったり、ダイヤモンドで切ってみたりと、その実験精神たるや容赦がありません。多種多様にある絵本と言っても、今ではキャラクターや物語が際立っているものに人気が集中しがちなのかもしれませんが、こんな綺麗な科学(というと何か大袈裟?)絵本を子どもに読ませて、ものの捉え方のケーススタディを若い内からやっておくのは、どんなレッスンよりも役立つ気がします。

著者:谷川 俊太郎

出版社:福音館書店

2008.3.19  Yoshitaka Haba : BACH

幅 允孝(はばよしたか)

幅 允孝(はばよしたか)

BACH(バッハ)代表。ブックディレクター。国立新美術館ミュージアムショップのスーベニアフロムトーキョーやLOVELESS、CIBONEなどにおける本のディレクションのほか、編集、執筆など、本周りのあらゆる分野で活動中。今年に入ってから、SHIBUYA PUBLISHING BOOKSELLERS、大阪の阪急百貨店メンズ館のThe Lobby、銀座のHANDS BOOKSがオープンしました。

URL: www.bach-inc.com

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